引き返して踏切を渡ろうとしたらちょうど電車がやってきた。この踏切のすぐ右には岩代駅があるのだ。
熊野古道に戻って歩いてゆくと、岩代駅の前に着いた。駅前には熊野古道の地図がたっていて、これで確認したら、万葉歌碑からはすぐに国道に出てしまって、国道に沿って歩くのだ。有馬皇子の碑は国道沿いにあったのである。指導標をちゃんと置いてほしいものだ。
岩代駅から坂道を上って行く。本当は坂の途中で右するのだが、私は気がつかずに直進してしまった。果樹園の中を上って行って、下りになったら行く止まりであった。しかたがないので引き返して、途中で横切った広い道からあたりを見回すと左に球場が見えた。私の地図にある千里ヶ丘球場である。
球場に向かって下って行くと、途中に指導標があった。これで迷わなくてすむ。私が歩いて来た方向が千里王子となっているのだが、この道は熊野古道ハイキングコースで、千里王子へはすごい迂回するのだ。私は万葉にも詠われた千里ヶ浜を歩きたいと思っている。このほうが直線コースで距離は短い。
球場前に着いたがその先は行き止まりであった。地図をどう眺めても、この球場から線路を渡って浜に出るようになっている。近くの道路を捜しまわったが、すべて行き止まりであった。最後には、果樹園の中の道も行ってみたのだが、これも結局行き止まり。困ってしまった。結局、ハイキングコースを行くしかないのだろうかと思ったが、念のため、なくしたガイドブックの本文を読んで確認することにした。私のパソコンには、すべての山の本と観光ガイドブックが入っているのだ。もちろん、なくした熊野古道の全ページも入っている。道ばたにしゃがみこんで、パソコンを広げた。
球場の下で線路を渡って、千里浜に降り立つと書いてある。じゃあやっぱり球場のどこかに線路を横断する道があるのだ。さっきも相当注意して確認したのだが…と思いながらも、線路を渡れそうなところを重点的に確認したら、あった。球場のすぐ下に小さな金網に囲まれたグランドがあって、その右に入ると、やはり金網に囲まれた通路で突き当たりは行き止まり。私はさっきここも確認したのだ。ここが一番線路に近いからこの金網を強引に越えようかと思ったら、その金網の間が細く開いていて、線路の出れるのだった。気がつかなかった。
やった…と喜んで線路に出たが、踏切もなにもない。でも、渡った向こうには反射鏡がたっている。渡って、左の細い道を下ると千里浜であった。ここまで1時間ほども余分に時間を使ってしまった。
波が打ち寄せる浜をのんびり歩いて行く。海辺を行く熊野古道なんて、すごく絵になるではないか。振り返ると、砂浜に私の足跡が続いている。なんかうれしくなってしまった。
気持ちよく波打ち際を歩いて行くと、向こうにお寺の門が見えてきた。これが千里観音であった。そのお寺に向かって上る石段だあるのだが、この左に神社が見える。これが千里王子神社である。
岩代王子からは3kmほどなのにすごく時間がかかってしまった。でもそのぶん、着いてすごくうれしい。
ここで大休止することにした。靴も脱いで足を投げ出し、浜辺に打ち寄せる波をぼんやり眺めていた。こんなときが「至福のひととき」なのだ。
休んでいたら、砂浜から熊野古道を歩いているらしいおじさんがやってきた。道がわかりにくかったでしょうと聞いたら、ハイキングコースをやってきたということであった。この人はすぐに出発して行った。いつまでものんびりしておれないので、私も出発することにする。11時18分になっていた。
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