国道を右に5分ほど行くと室生寺の太鼓橋の前にでる。
これが室生寺の入り口なのだが、お土産屋さんの間に挟まれていて、有名な室生寺にしては入り口がぱっとしない。
でも橋の前には下乗石が置かれて、車は入れないようになっていた。
太鼓橋を渡ると正面に表門があるが、そこには大きな石柱があって「女人高野」と書かれている。真言密教の総本山高野山はかって女人禁制であった。高野山に参拝できない女性の信者はこの室生寺に参拝したのだ。この寺の開祖は役の行者なのだそうだが、平安初期に空海が入山して、真言道場として堂塔伽藍を造り上げたのだという。でも、いろいろ資料を読んだりすると、このあたりは奈良興福寺の寺領にあたり、興福寺の僧がこの伽藍を建てたというのが本当のようである。女人高野といわれるようになるのは江戸時代になってからなのだ。
どうでもいいゴタクを並べてしまったが、参道は右に続いている。すぐに左折すると拝観受付があって、その向こうに立派な仁王門が建っていた。
今日は室生寺をゆっくり拝観しようと思っている。
室生寺といったら、やっぱり五重塔である。
昔、初めて室生寺に来たとき、この五重塔のすばらしさに感動した。もう一度この五重塔が見れると思うと、ワクワクしてしまう。
ただ、この塔は1998年の台風で半壊の目にあっている。近くの杉の木が倒れて、それによって塔の屋根が壊されてしまったのだ。でも、今はもう修復が終わっているはずである。
この室生寺には、仏像もすばらしいものが多い。平安初期の国宝の仏像を多く見ることができのだ。楽しみである。
石段を登っていくと、金堂の屋根が見えてくる。このあたりは秋に来るとすばらしい紅葉に彩られる。そして、5月の始めはシャクナゲの花を見ることができるのだ。もう2週間早く来るべきだった…。
石段を登りきった正面が金堂なのだが、左には弥勒堂がある。まず、弥勒堂に参拝する。
本尊には弥勒菩薩が安置されていて、この仏像もすばらしいのだが、私はその脇に置かれている釈迦如来の方が好きである。塗りは消えてしまっていて、白い木肌を現している。頭の羅髪がなくてのっぺらしている。このすっきりした感じがすごくて、他の仏像とは違った雰囲気を生み出している。
さて、次は金堂の仏像を拝観する。ここの仏像がまたすばらしいのだ。堂内には5体の仏像と、その前に十二神将が一列に並べられている。ここの仏像のすごさは、その色彩にある。
普通、私たちが見る仏像は、金箔とか、色彩は剥げ落ちてしまっていて、すごく地味な色になってしまっているのだが、本来の仏像はそうではない。すさまじいばかりの極色彩で飾られていたのだ。現在、中国とか韓国、東南アジアで見る仏像と同じだったのだ。この室生寺の仏像には当時の彩色が残っていて、それが妖しいばかりの美しさを見せている。
たとえば、ここの十一面観音はすごい。向かって一番左に立っている仏像なのだが、ふっくらとした女性の面立ちで、その唇には朱の色が残っている。ほとんど艶めかしいばかりの美しさである。その法衣もかすれてきてはいるのだが、細かな極彩色の文様で飾られている。これってすごいと思うのだ。
宗教には、ほとんどこけおどしと言えるような演出がつきもので、それをもって信者を虜にしてしまおうとしている。すさまじく大きな伽藍を造営するのもそうだし、内陣が極彩色や金色に飾られるのもそうである。それはキリスト教とか、他の宗教でもまったく変わらない。
また寺院での読経とか線香なんかもその演出の一つだと思ってしまう。昔の線香というのは、まさしくお香そのもので、その心地よい香りで信者を取り込んでしまう。お経にしても、今では退屈そのものなのだが、これはキリスト教の讃美歌と同じで、音楽なのだ。多くの僧侶が声を合わせて読経するのは「声聞(しょうもん)」といって、音楽による極めて効果的な演出である。そうしたことと考えあわせると、仏像たちが極彩色に飾られていたのは当たり前のことなのである。
とはいえ、そうしたくだらない考え抜きでも、ともかくこの金堂の仏像はすばらしい。
本尊は釈迦如来である。ここに安置される仏像はすべて立像なのだが、釈迦如来の衣文の襞が特徴的である。この造りを翻波式という。平安初期の仏像の極めて特徴的な作風である。法衣の襞の線が本当にリズミカルな文様を形造っている。代表的なのは京都高雄の神護寺にある薬師如来である。だが、この釈迦如来像で見るべきものは、実はその光背にある。平たい板で造られているのだが、そこには鮮やかな色彩で絵が描かれている。これもすごいのだ。ちょっと遠くて細かなところまで見えないのが残念。本当にここの仏像はすごい。
ここから石段を登っていくと本堂があって、この左横の道を行くと、石段の上に五重塔が見える。これが国宝、室生寺の五重塔である。
決して大きなものではなくて、高さは16m、これを下から見上げたかっこうが実にいい。五つに重なる四角な屋根が不思議なハーモニーを生んでいる。何枚も写真を撮ってしまった。まだ時間が早いせいか、観光客も少なくて思う存分撮影できた。
さて、五重塔からさらに登って行くと奥の院である。
ここまでもけっこう登って来たのだが、ここからはさらに急な石段が待っていた。
行く手には懸崖造りの「位牌堂」が建っている。ようやく登りつくと、そこには御影堂があって、弘法大師が祭られている。その横に大きな岩があって、上には十三重の石塔がたっていた。ここはかなり高いところで、室生の街が下に小さく見えた。
引き返す。
このころになると観光客が増えてきていて、五重塔のあたりではけっこう人が多かった。
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