休憩所からも杉林の中の急下降が続く。私の持ってきた古いガイドブックには、「この当たりは沢ガニがたくさんいて、足を降ろすのに苦労するくらい」と書かれているのだが、カニを見ることは一度もなかった。
一度作業林道を横切るのだが、そこからすさまじい岩峰を見ることができた。これがどうも岩古谷山のようである。
作業林道からさらにジグザグに設けられた急な階段を下って民家の横に出る。そこには和市バス停まで400mという指導標があった。ここが和市の集落なのだ。指導標には岩古谷山までは1.5km60分とも書かれていて、意外と近いので喜んでしまった。
梅畑の中の山道に入る。杉林になるとすぐに自然歩道の古いトイレがあった。舗装された林道を横切ると本格的な登りが始まる。
杉林の中、真っ直ぐで急な階段道が続いている。これを10分ほど登って、沢を渡ると「十三曲」の標識があった。その名前の通り、ジグザグに急斜面を登って行くのだ。急な階段道を息を切らせて登って、ようやくベンチの置かれた平坦地に着く。ここが堤石峠で、説明板には「この峠は田口と奥の黒倉集落を結ぶ唯一の街道で、峠を境に上り下りとも13づつの曲がりがあり、古くから十三曲がりと呼ばれていました。」と書かれていた。堤石峠で尾根に登り着いたのだが、ここで右折して急な尾根を登って行かなければいけない。峠の指導標には岩古谷山600m、30分と書かれていた。
赤い字で「この先歩行注意」と書かれた標識をみて、急な尾根を登って行く。急階段を上って、木の根が張り出す道を行くと樹林から抜け出した。行く手にはすさまじい断崖が見えた。
東海自然歩道はファミリーハイキングコースだと思っていたのに、それにあるまじき険しい山である。まず鞍部に向かって急な階段を下る。うそだろうと叫びたくなるような急な丸太を組んだ階段で、手すりもつけられているのだが、目がくらみそうだ。
鞍部からは長い鉄のハシゴを登る。巨大なスラブが垂直にそそり立っていて、これをハシゴで登って行くのだ。
鉄ハシゴの次は桟の登りになる。でも、渡された丸太はかなり朽ちていて、つけられた手すりも赤いさびが浮き出ている。かなり怖い。私のガイドブックには、このコースは丹沢や鈴鹿と並ぶ自然歩道の三難所と書かれているのだが、それが真実であると納得した。
桟は絶壁にジグザグに続いていて、これを慎重に登って行く。足が震える登りが続くのだが、時々視界が開けるとすばらしい展望である。行く手に聳える岩古谷山とその奥に鞍掛山が見える。振り返って見下ろすと和市の集落が箱庭のように見える。
桟の道が終わったと思ったら、今度は岩を刻んで階段状にしたスラブの登りになった。ロープの手すりがつけられているが、これもかなり怖い。
一旦樹林に入ってから緩やかに下って、大きな岩の横を桟で越えると、痩せた岩尾根になった。岩尾根の突き当たりは大きな露岩の展望台になっていた。もちろん下は断崖絶壁である。ロープで柵が設けられていて、ここからの展望はすばらしい。
自然歩道に戻って、樹林の中を少し行くと簡易トイレがあって、そのすぐ先が岩古谷山の山頂であった。山頂は広場になっているので、ここにテントを張ることにした。15時少し前であった。今日は、早くテントに落ち着くことができた。
|