華頂侯爵の邸宅からは民家も少なくなって、傾斜もきつくなり、とうとうう車道の終点に着いてしまった。その先には山道が続いている。樹林の中を上って行って、林から抜け出すと住宅地が広がっていた。
さて、ここから道がよくわからない。大規模宅地で、道が錯綜している。地図で確認して、ともかく南に向かって下って行った。ところが、途中で磁石がおかしい。南をめざしていたのが、いつのまにか東になっている。最初は南だったのに、いつの間に方角が変わってしまった…と思っているうちに、広い車道にぶつかった。住宅地の地図がたっていたので確認すると、ともかくこの道を右に下っていったらいいらしい。
歩いて行くとバス停があって、その名前から、私は南に向かうところを東に歩いてしまったことがわかった。すごい遠回りをしてしまった。どっと疲れが出てしまった。
ようやく横須賀線の線路にぶつかった。この線路に沿って、左に歩いて行く。岩殿寺の入口まではすごく遠く感じた。標識に従って左の路地に入って、山側に向かって行くと岩殿観音という石柱がたっていた。その先には赤い幟が続いていて、ようやく山門の前に着いた。
山門をくぐると、すぐに左に本堂と納経所があるのだが、まず観音堂にお参りをしなければいけない。右に「利生堂」という六角堂を見て、急な石段を上って行く。長くてきつい石段を息を切らせて上り、途中から振り返ると海が見えた。
ようやく観音堂の前に着く。他に参拝者は誰もいなくて、シンと静まりかえっていた。
読経を終えて、すぐに下ろうと思ったが、ガイドブックを見たら、お堂の後ろに「奥の院岩殿観音」があるというので、お参りしてゆくことにした。
観音堂を回り込んで行くと、ヤグラのような岩窟があって、その奥の壁が穿たれて観音さまが納まっている。手を合わせて、それから石段を下った。
納経帳に朱印をいただいて、山門を出たら、すぐ右に大きな石碑があるのに気が付いた。泉鏡花の文学碑であった。私は泉鏡花の幻想的な文学がけっこう好きなのだ。
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